グラフの「かたち」は何を決めるのか ― 平面性から四色定理へ
平面グラフは辺数が $3V - 6$ 以下に抑えられ,一般のグラフで困難な問題も効率的に解けます.オイラーの公式 $V - E + F = 2$,Kuratowski の定理,そして四色定理の哲学的意味を直感的に解説します.
これまでの記事では,グラフを「頂点と辺の集合」として扱い,その組合せ的構造を調べてきました.しかし,グラフには幾何学的な側面もあります.グラフを平面上に辺が交差しないように描けるかどうか ― この平面性という性質が,驚くほど多くのことを決定します.
1 平面グラフとは
しかし,頂点が5個()や,辺の配置が特殊()になると,もはや交差なしには描けません.
2 オイラーの公式 ― トポロジカル不変量
平面グラフの最も基本的な性質がオイラーの公式です.
3 平面グラフの辺数の上界 ― 疎性の保証
オイラーの公式から,平面グラフの辺数に強い制約が得られます.
4 Kuratowski の定理 ― 平面性の完全な特徴づけ
とが平面的でないことは辺数の議論で示せました.Kuratowski は,この2つが平面性の唯一の障害であることを証明しました.
5つの「もの」がすべて互いに結ばれている( 型)
3つの「もの」と3つの「もの」がすべて結ばれている( 型,別名「3軒の家と3つの公共施設問題」)
5 平面性が計算を楽にする
という上界は,を意味します.一般のグラフではになり得るので,平面グラフは本質的に疎(sparse)です.
BFS, DFS:
Dijkstra(ヒープ使用):
一般のグラフで かかるアルゴリズムが になることがある
さらに,平面グラフでは一般のグラフで NP 完全な問題が効率的に解けることがあります.
この分離定理は分割統治法を可能にし,多くの問題に準指数時間アルゴリズムや PTAS(多項式時間近似スキーム)を与えます.
6 四色定理 ― 150年の挑戦
平面グラフの彩色に関する最も有名な結果が四色定理です.
コンピュータによる証明は「証明」として認めてよいのか?
人間が理解できない証明に数学的意味はあるのか?
四色で十分なことは非自明ですが,5色で十分なことは比較的簡単に示せます.
7 まとめ
平面グラフ:辺の交差なしに平面に描けるグラフ
オイラーの公式 は,平面グラフの基本的なトポロジカル不変量
により平面グラフは疎であり,アルゴリズムが高速に動く
Kuratowski の定理: と の細分が唯一の非平面性の障害
四色定理:任意の平面グラフは4色で塗れる(証明にコンピュータを使用)
8回にわたるグラフ理論「教科書の行間」シリーズはこれで完結です.グラフという抽象化が,ケーニヒスベルクの橋から計算量理論,位相幾何学まで,どれほど広い世界に通じているかを感じていただけたなら幸いです.