準同型写像 — 「構造を保つ」とはどういうことか
群準同型の条件 φ(ab)=φ(a)φ(b) はたった1つです.なぜこれだけで単位元・逆元の保存が従うのか.mod n,sgn,det,exp/log,複素共役など具体例を網羅的に調べ,核と像,そして「核=正規部分群」の双方向対応を理解します.
群の間の写像を考えるとき,教科書は「準同型写像」を次のように定義します.
条件はたったつです.群には単位元と逆元もあるのに,やは要求しなくてよいのでしょうか.
1 1つの条件で全てが従う
積の保存から,単位元と逆元の保存は自動的に導かれます.
ですからです.両辺にを掛ければが得られます.
逆元について.ですからです.よってです.
2 準同型の具体例カタログ
抽象的な定義だけでは掴みにくいので,例を並べて全体像を掴みましょう.
剰余への射影. です.ですから準同型です.最も基本的な例であり,前回の商群の構成そのものです.
符号準同型. 偶置換に,奇置換にを対応させます.が成り立つので準同型です.個の元を持つが,たったつの値に凝縮されます.
行列式. 線形代数で学ぶは,まさに準同型条件です.行列が持つ膨大な情報がつの実数に圧縮されます.
指数関数. ですから,加法群から乗法群への準同型です.逆写像も準同型です:.
複素共役. ですから準同型であり,(全単射)ですから同型写像です.
自明な準同型. 任意の群から任意の群へで定める写像は,常に準同型です.全ての情報が消える「最悪の準同型」ですが,条件は満たしています.
包含写像. 部分群に対して()は単射準同型です.
3 核 — 何が潰されるか
準同型の核(kernel)は,の単位元に送られる元の集合です:
上の例それぞれで核を見てみましょう:
:( の倍数全体)
:(偶置換全体=交代群)
:(行列式 の行列全体)
:( は単射)
自明な準同型:(全体が潰される)
包含 :(単射)
核は「によって区別できなくなる差の集合」です.核が大きいほど多くの情報が失われ,ならは単射です.
4 核は必ず正規部分群になる
ここに重要な事実があります.準同型写像の核は,必ず正規部分群です.
のとき,任意のに対して
上の例を振り返ると:,, — いずれも正規部分群として知られています.準同型の核であることから,正規性が一撃で従うのです.
そして逆も成り立ちます:任意の正規部分群は,何かの準同型写像の核です.自然な射影()の核がまさにだからです.
つまり「正規部分群」と「準同型の核」は同じものの二つの顔です.前回「正規でないと商群が作れない」ことを見ましたが,その理由がここで完全に明らかになります.
5 像 — どこまで届くか
準同型の像(image)はが到達するの部分集合です:
:(全射)
:( で全射)
:(全射)
:( 全体には届かない — 負数は で表せない)
像は必ずの部分群です.像が全体と一致するときは全射です.
6 単射・全射・同型
核と像を使えば,写像の性質が簡潔に判定できます:
が単射
が全射
両方を満たすとき を同型写像といい, と書きます
単射の判定は「全ての元のペアを調べる」のではなく「核が自明かどうか」だけで済みます.例えばは(単射)かつ(全射)ですから同型です.加法群と乗法群が同型 — 一見意外な結果ですが,との関係を思えば自然です.
7 まとめ
準同型条件のたったつの条件から,単位元・逆元の保存が自動で従います.核は「で区別できなくなる差」,像は「の到達範囲」であり,このつが準同型の全体像を決定します.特に「核=正規部分群」「正規部分群=核」という双方向の対応は,商群と準同型を結ぶ橋であり,次の同型定理の出発点になります.