代数的整数入門 ― 整数の概念を拡張する
ガウス整数$\mathbb{Z}[i]$とアイゼンシュタイン整数$\mathbb{Z}[\omega]$を具体例として代数的整数環を導入する.$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$での一意分解の崩壊を示し,イデアルと素イデアル分解による救済,類数の概念を解説する.
1 ガウス整数
定義 1 (ガウス整数).
をガウス整数環(Gaussian integers)という.ここで である.
定義 2 (ノルム).
ガウス整数 のノルムを と定める().
定理 3 (ノルムの乗法性).
.
証明.
. □
定理 4 ( はユークリッド整域).
はノルム に関してユークリッド整域である.すなわち任意の ()に対して ()なる が存在する.
証明.
()とする., なる整数 を取り とおく. とすると . □
系 5.
は一意分解整域(UFD)である.
定理 6 (ガウス素数の分類).
の素元(ガウス素数)は,単元 による同伴を除いて以下の3種類である:
( に対応).
( なる素数 ).
( なる有理素数).
2 アイゼンシュタイン整数
定義 7 (アイゼンシュタイン整数).
とし, をアイゼンシュタイン整数環という.ノルム .
定理 8.
はユークリッド整域であり,したがって UFD である.
注意 9.
アイゼンシュタイン整数はフェルマーの最終定理の の場合の証明( が非自明な整数解を持たないこと)において本質的な役割を果たす.
3 一意分解の崩壊
定理 10.
は UFD でない.
証明.
においてノルム を考える.
,,. を満たす は を満たす整数 が存在しないので不可能.同様に も不可能.よって はすべて既約元である. と は単元倍の関係にないので( の値が異なる), は2通りの本質的に異なる既約分解を持つ. □
4 イデアルと素イデアル分解
定義 11 (イデアル).
環 の空でない部分集合 がイデアルであるとは, ならば かつ , ならば が成り立つことをいう.
定理 12 (デデキントの定理).
代数体 の整数環 の でないイデアルは,素イデアルの積として一意的に表される(因子の順序を除く).
注意 13.
デデキントの定理は「元の一意分解」が崩壊する場合でも「イデアルの一意分解」が成り立つことを保証する. では の分解が元のレベルでは一意でないが,イデアルのレベルでは と一意的に分解される.
例 14.
において (),().
5 類数
定義 15 (イデアル類群と類数).
の分数イデアル全体のなす群を ,単項分数イデアル全体を とする.商群 をイデアル類群(ideal class group)といい,その位数 を類数(class number)という.
定理 16.
が UFD であることと は同値である.
証明.
ならばすべてのイデアルが単項,すなわち は単項イデアル整域(PID).PID は UFD である(標準的な証明による).逆に が UFD ならば任意のイデアルが単項であることが既約元の性質から導かれ,. □
例 17.
( は UFD),( は UFD でない).類数が の虚二次体は有限個しかなく,()では の9つのみである(Heegner-Stark-Baker の定理).
注意 18.
類数は整数環の「一意分解からのずれ」を測る重要な不変量である.ミンコフスキーの限界を用いて類数を有限であることを証明でき,具体的な計算には体の判別式とイデアルのノルムの関係が用いられる.