代数的グラフ理論入門 ― 行列で読むグラフの構造
隣接行列,ラプラシアン$L=D-A$,行列木定理,固有値と連結性,$A^k$の$(i,j)$成分が道の数を表すことを証明する.
1 隣接行列
定義 1 (隣接行列).
頂点の単純グラフ ()に対して,隣接行列(adjacency matrix) を
で定める. が無向グラフのとき は実対称行列である.
例 2.
パスグラフ (頂点 )の隣接行列は
2 と歩道の数
定理 3 ( の組合せ的解釈).
グラフ の隣接行列を とする. の 成分は, から への長さ の歩道(walk)の数に等しい.
証明.
に関する帰納法で示す.: であり, は と が隣接すること,すなわち長さ1の歩道が1つ存在することに対応する. は隣接しないこと,すなわち歩道がないことに対応する.帰納段階: の 成分が から への長さ の歩道の数であると仮定する.
のとき( と が隣接するとき), から への長さ の各歩道に辺 を追加して から への長さ の歩道が得られる. なら寄与しない.すべての中間頂点 にわたる和を取ると, から への長さ の歩道の総数が得られる. □
例 4.
(三角形)の隣接行列は であり,. は から への長さ2の歩道が2つ( と )あることを表す.
3 ラプラシアン行列
定義 5 (次数行列とラプラシアン).
の次数行列(degree matrix) を ,()で定める. のラプラシアン(Laplacian matrix)を
と定める.
の各行の和はである().よって,すなわち全成分のベクトルは固有値に属する固有ベクトルである.
定理 6 (ラプラシアンの半正定値性).
は半正定値である.すなわち任意の に対して .
証明.
最後の等号は各辺 について への寄与と への寄与を整理すれば得られる. □
4 固有値と連結性
は実対称かつ半正定値なので,固有値をと並べることができる.
定理 7 (連結成分と固有値 の重複度).
グラフ の連結成分の数は, の固有値 の重複度に等しい.
証明.
が 個の連結成分 を持つとする.頂点を連結成分ごとにまとめると はブロック対角行列 となる.各 は半正定値で を満たすから固有値 を少なくとも1つ持つ. の固有値 の重複度が1であることを示す. ならば であり, は連結なので任意の2頂点間にパスがあり,すべての成分が等しい.よって は のスカラー倍で1次元.全体では固有値 の重複度は である. □
定義 8 (代数的連結度).
が連結グラフのとき,( の2番目に小さい固有値)を の代数的連結度(algebraic connectivity)またはFiedler値という.
注意 9.
と が連結であることは同値である. が大きいほどグラフの連結度が「強い」ことを意味し,グラフの分割やクラスタリングにおいて重要な指標となる.
5 行列木定理
定理 10 (行列木定理(Kirchhoff, 1847年)).
を 頂点の連結グラフ, をラプラシアンとする. の任意の -余因子を とおくと, の全域木の数 は
ここで は の固有値である.
証明.
証明の概略を述べる. を の第 行と第 列を除いた 行列とする.Cauchy–Binet の公式により
ここで は の接続行列(向き付きの辺頂点接続行列から第 行を除いたもの)であり, は の 元部分集合を動く. と が全域木であることが同値であり(このとき ),上の和は全域木の数に等しい.固有値との関係は で与えられる( の固有多項式の解析から従う). □
例 11.
のラプラシアンの固有値は であり,.一般に (Cayleyの公式).