群作用 — 群が世界を「動かす」とき
群はそれ自体で抽象的な代数構造ですが,集合に「作用」させることで初めて具体的な力を発揮します.軌道・固定部分群・バーンサイドの補題を通じて,群作用が数え上げ問題を解く威力を体感しましょう.
群論を学んでいくと,ある時点で「群作用」という概念が登場します.教科書は定義を述べ,いくつかの例を示し,軌道や固定部分群に進みます.しかし,そもそもなぜ群を集合に「作用させる」のでしょうか? 群だけで十分ではないのでしょうか?
答えは,群作用が群の「正体」を暴く最強の道具だからです.群は抽象的な公理の集まりですが,何かに作用させることで,その群が何を動かすものなのかが見えてきます.
1 群作用の定義
(単位元は何もしない)
(続けて作用 = 積で作用)
条件2は「で動かしてからで動かすのは,で一度に動かすのと同じ」という意味です.
2 群作用の典型例
例1:正方形への二面体群の作用
が正方形の頂点集合に自然に作用します.回転は,反転は頂点を入れ替えます.
例2:共役作用
任意の群は自分自身に共役で作用します:.条件を確認すると
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この作用は群の内部構造を分析する強力な道具となります(類等式など).
例3:剰余類への左乗法作用
部分群に対して,は左剰余類の集合に左乗法で作用します:.これは前回までに見た商群とは異なり,が正規でなくても定義できます.
3 軌道と固定部分群
群作用が与えられたとき,の各元に対して2つの重要な概念が現れます.
軌道は「を動かして到達できる点の全体」,固定部分群は「を動かさない元の全体」です.
4 軌道–固定部分群定理
軌道と固定部分群の間には美しい関係があります.
つまり「が動ける先の数」と「をで割った指数」が一致します.
これは次の全単射から従います:
(すべての頂点に到達可能)
(頂点1を固定する操作は恒等変換と,頂点1を通る対角線での反転)
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5 バーンサイドの補題
群作用の華とも言える応用が,バーンサイドの補題(正確にはコーシー–フロベニウスの定理)です.
日本語で言えば:「本質的に異なるパターンの数」= 各操作の固定点数の平均です.
6 応用:立方体の面を3色で塗る方法
= 「6面への3色塗り」の全体 = 通りです. = 立方体の回転群(位数24)です.
の元を分類して,各元の固定点数を計算します:
恒等変換(1個):すべての塗り方を固定します.
面の中心を通る軸での/回転(6個):回転軸に垂直な4面が同色になります.
面の中心を通る軸での回転(3個):対面が同色になります.
対角線を通る軸での/回転(8個):軸の周りの3面ずつが同色になります.(対角の2頂点の周りの3面ずつが各グループ同色, 通り)
対辺の中点を通る軸での回転(6個):2面ずつ3組が入れ替わります.
バーンサイドの補題より
答えは57通りです.
729通りの塗り方を1つずつ比較するのは非現実的ですが,群作用の理論を使えば体系的に計算できます.これが群作用の威力です.
7 まとめ
群作用は,抽象的な群を「具体的に働かせる」ための枠組みです.軌道–固定部分群定理は群の位数と作用の幾何学を結びつけ,バーンサイドの補題は「対称性を考慮した数え上げ」を可能にします.群論が純粋な代数にとどまらず,組合せ論・幾何学・物理学に広く応用される理由は,まさにこの「作用」という概念にあります.