行列式 ― 正方行列に定まるスカラー量
置換を用いた行列式の定義から出発し,交代性・多重線形性を証明する.余因子展開,積公式 det(AB)=det(A)det(B),クラメルの公式まで体系的に展開する.
1 置換と符号
定義 1 (置換).
の全単射 を 次の置換という. 次置換全体のなす群を と書く. である.
定義 2 (互換と符号).
2つの元だけを入れ替え他を固定する置換を互換という.任意の置換は互換の積で書ける.置換 が偶数個の互換の積で書けるとき ,奇数個のとき と定め, を の符号という.
定理 3.
が成り立つ.
証明.
が 個の互換の積, が 個の互換の積で書けるとすると, は 個の互換の積で書ける., であるから . □
2 行列式の定義
定義 4 (行列式).
次正方行列 の行列式を
と定義する.
例 5.
:.(サラスの方法):
3 基本性質
定理 6 (行列式の基本性質).
行列式は行(および列)について次の性質を持つ:
多重線形性:各行について線形である
交代性:2つの行を入れ替えると符号が変わる
正規化:
証明.
(1) 多重線形性: の第 行を としたとき,定義式 において第 因子のみが変わり,積の線形性から が成り立つ( はそれぞれ第 行を に置き換えた行列).(2) 交代性:第 行と第 行を交換した行列を とする. の 成分は のとき入れ替わり,他はそのまま.定義式で互換 を用いた置換の付け替え により が示される.(3) 正規化: の 成分は のとき全て , のとき少なくとも一つの因子が となるので . □
定理 7.
以下が成り立つ:
2つの行が等しければ
ある行が零ベクトルならば
ある行に別の行のスカラー倍を加えても行列式は変わらない
ある行を 倍すると行列式は 倍になる
証明.
(1) 2行が等しい行列で行交換すると元に戻る.交代性より なので .(2) 多重線形性で とおけばよい.(3) の変換で,多重線形性と (1) より は不変.(4) 多重線形性から直ちに従う.(5) 定義式で を に置き換えれば得られる. □
4 余因子展開
定義 8 (余因子).
から第 行と第 列を除いた 小行列の行列式を (小行列式)とし, を 余因子という.
定理 9 (余因子展開).
任意の について(第 行展開):
任意の について(第 列展開):
証明.
第 行展開を示す.定義式 を ごとにまとめる. を固定すると,残りの対応 は 次の置換 と見なせる. であることが互換による移動回数から確かめられる.よって
列展開は と行展開を組み合わせて得られる. □
例 10.
の第1行展開:
5 積公式
定理 11 (行列式の積公式).
次正方行列 に対して
証明.
のとき, は正則でないので .よって も正則でなく,. のとき, は基本行列の積 と書ける.各基本行列について が基本性質から確かめられる.帰納法で . □
定理 12.
が正則 .正則のとき .
証明.
が正則ならば であり,積公式より .よって かつ .逆に のとき, が正則でないと仮定すると であり, の列ベクトルは線形従属である.このとき行基本変形で少なくとも1つの零行が現れるので となり矛盾.よって は正則である. □
6 クラメルの公式
定理 13 (クラメルの公式).
次正方行列 が正則のとき, の解は
で与えられる.ここで は の第 列を で置き換えた行列である.
証明.
の解は である.( は余因子行列)を用いると
最後の等号は が第 列を で置き換えた行列の第 列展開に一致することによる. □
定理 14 (逆行列の公式).
正則行列 の逆行列は
で与えられる( は余因子行列の転置).
証明.
を余因子行列の転置とする. の 成分を計算すると
のとき,これは第 行による余因子展開そのものであり に等しい. のとき,これは の第 行を第 行で置き換えた行列の行列式であり,同じ行が2つあるので である.よって . より .同様に も示せるので,. □