1. はじめに:この記事の使い方
この記事は,学部レベルの群論(代数学の教科書1冊分)を一記事で俯瞰することを目的とする.各トピックについて,定義・主要定理・証明スケッチを簡潔にまとめる.
使い方:
初学者 → セクション順に読み進め,群論の全体像を掴むとよい
復習・試験対策 → 目次から必要なセクションへジャンプされたい
定理の確認 → セクション13「群論の定理一覧」で主要定理を一覧できる
以下の依存関係図は,各トピックがどのように繋がっているかを示す.
graph TD
A["群の公理と基本性質"] --> B["部分群と生成"]
B --> C["剰余類とラグランジュの定理"]
C --> D["正規部分群と商群"]
A --> E["準同型写像"]
D --> E
E --> F["同型定理"]
D --> F
A --> G["群作用"]
C --> G
G --> H["共役と類等式"]
H --> I["Sylowの定理"]
C --> I
G --> I
B --> J["直積と有限アーベル群の構造定理"]
I --> J
D --> K["単純群とJordan-Hölderの定理"]
F --> K
style A fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
style I fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
style J fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
style K fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
2. 群の公理と基本性質
集合 G と二項演算 ⋅:G×G→G の組 (G,⋅) が群(group)であるとは,次の3条件を満たすことをいう:
結合法則:任意の a,b,c∈G に対して (a⋅b)⋅c=a⋅(b⋅c)
単位元の存在:ある e∈G が存在して,任意の a∈G に対して e⋅a=a⋅e=a
逆元の存在:任意の a∈G に対して,a⋅b=b⋅a=e なる b∈G が存在
群 G において,単位元は一意であり,各元 a の逆元も一意である.
単位元の一意性:e,e′ がともに単位元ならば e=e⋅e′=e′ である.逆元の一意性:b,b′ がともに a の逆元ならば b=b⋅(a⋅b′)=(b⋅a)⋅b′=b′ である. □
群 G において ab=ac⇒b=c(左消約),ba=ca⇒b=c(右消約)が成り立つ.
基本的な群の例:
(Z,+):整数の加法群.単位元は 0,a の逆元は −a
(Sn,∘):n 次対称群(n 文字の置換全体).∣Sn∣=n!
(GLn(R),⋅):n 次一般線型群(正則行列全体)
(Dn,∘):正 n 角形の二面体群.∣Dn∣=2n
(Z/nZ,+):n を法とする剰余類の加法群.位数 n の巡回群
(V4,⋅):クラインの四元群 {e,a,b,ab}.a2=b2=(ab)2=e
群 G が任意の a,b∈G に対して ab=ba を満たすとき,アーベル群(可換群)という.
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/nGcgO388h1vV9qXN0gik
3. 部分群と生成
群 G の空でない部分集合 H が G の演算で群になるとき,H を G の部分群といい,H≤G と書く.
空でない部分集合 H⊆G について,次は同値である:
H≤G
任意の a,b∈H に対して ab−1∈H(一段階判定法)
e∈H かつ,任意の a,b∈H に対して ab∈H および a−1∈H(二段階判定法)
S⊆G に対して,S を含む最小の部分群を ⟨S⟩ と書き,S で生成される部分群という.G=⟨g⟩ となる元 g が存在するとき,G は巡回群であるという.
巡回群は Z(無限巡回群)または Z/nZ(位数 n の巡回群)に同型である.
a∈G に対して,an=e となる最小の正整数 n を a の位数(order)といい,ord(a)=n と書く.そのような n が存在しないとき ord(a)=∞ とする.
ord(a)=n のとき,ak=e⟺n∣k が成り立つ.
4. 剰余類とラグランジュの定理
H≤G,a∈G に対して aH={ah∣h∈H}(左剰余類),Ha={ha∣h∈H}(右剰余類)
左剰余類の個数 [G:H]=∣G/H∣ を G における H の指数という.
有限群 G の部分群 H に対して ∣G∣=[G:H]⋅∣H∣
特に ∣H∣ は ∣G∣ を割り切る.
各左剰余類 aH は ∣H∣ 個の元を持つ(ℓa:H→aH, h↦ah が全単射).左剰余類は G の分割であるから ∣G∣=[G:H]⋅∣H∣ である. □
重要な系:
有限群 G の元 a の位数 ord(a) は ∣G∣ を割り切る.特に a∣G∣=e である.
素数 p を位数に持つ群 G は巡回群である(G≅Z/pZ).
素数 p と gcd(a,p)=1 なる整数 a に対して ap−1≡1(modp) である.
(Z/pZ)× は位数 p−1 の群で,amodp はその元である.ラグランジュの定理の系1より ap−1≡1 である. □
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/tn1vvFT7SsGHFRgYPZ8l
5. 正規部分群と商群
部分群 N≤G が正規部分群であるとは,すべての g∈G に対して gN=Ng が成り立つことをいう.N⊴G と書く.
N≤G に対して,次は同値である:
N⊴G(gN=Ng for all g)
任意の g∈G に対して gNg−1=N
任意の g∈G,n∈N に対して gng−1∈N
N はある準同型写像の核である
N⊴G のとき,剰余類の集合 G/N={gN∣g∈G} に積 (aN)(bN)=(ab)N
を定めると,G/N は群になる.この群を商群という.
自然な射影π:G→G/N(g↦gN)は全射準同型で,kerπ=Nである:
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/llqLZ00HXcvk4frf5Nfu
6. 準同型写像
群 G,H の間の写像 φ:G→H が群準同型(homomorphism)であるとは φ(ab)=φ(a)φ(b)(∀a,b∈G)
が成り立つことをいう.
φ:G→H が群準同型ならば:
φ(eG)=eH(単位元の保存)
φ(a−1)=φ(a)−1(逆元の保存)
(1) φ(eG)=φ(eG⋅eG)=φ(eG)φ(eG) の両辺に φ(eG)−1 を掛けて eH=φ(eG) である.(2) φ(a)φ(a−1)=φ(aa−1)=φ(eG)=eH より φ(a−1)=φ(a)−1 である. □
準同型 φ:G→H に対して: kerφImφ={g∈G∣φ(g)=eH}(核)={φ(g)∣g∈G}(像)
kerφ⊴G(核は正規部分群),Imφ≤H(像は部分群)である.
基本的な準同型の例:
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/6Sxz3VUjTjt7Lbmh17BS
7. 同型定理
graph LR
A["第一同型定理<br/>G/ker φ ≅ Im φ"] --> B["第二同型定理<br/>HN/N ≅ H/(H∩N)"]
A --> C["第三同型定理<br/>(G/N)/(H/N) ≅ G/H"]
D["準同型写像の核と像"] --> A
E["正規部分群と商群"] --> A
style A fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
φ:G→H を群準同型とするとき G/kerφ≅Imφ
φˉ(gkerφ)=φ(g) で写像を定める.gkerφ=g′kerφ ならば g−1g′∈kerφ より φ(g)=φ(g′)(well-defined).準同型性・単射性(φˉ(gkerφ)=eH⇒g∈kerφ)・全射性はいずれも直接確認できる. □
φ:H→HN/N,h↦hN は全射準同型で,kerφ=H∩N である.第一同型定理を適用する. □
N⊴G,H⊴G,N⊆H のとき (G/N)/(H/N)≅G/H
φ:G/N→G/H,gN↦gH は全射準同型で,kerφ=H/N である.第一同型定理を適用する. □
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/6Sxz3VUjTjt7Lbmh17BS
8. 群作用
群 G が集合 X に(左)作用するとは,写像 G×X→X((g,x)↦g⋅x)が次を満たすことをいう:
e⋅x=x
(gh)⋅x=g⋅(h⋅x)
G が X に作用するとき: Orb(x)Stab(x)={g⋅x∣g∈G}(x の軌道)={g∈G∣g⋅x=x}(x の固定部分群,安定化群)
Stab(x) は G の部分群である.
∣Orb(x)∣=[G:Stab(x)]=∣Stab(x)∣∣G∣
G/Stab(x)→Orb(x),gStab(x)↦g⋅x が well-defined な全単射であることを示す. □
任意の群 G は,ある対称群 SX の部分群と同型である.G が有限群なら G は S∣G∣ の部分群と同型である.
G は左乗法によって自分自身に作用する(g⋅x=gx).この作用から得られる準同型 ρ:G→SG は単射である(ρ(g)=id⇒gx=x for all x,よって g=e). □
有限群 G が有限集合 X に作用するとき,軌道の数は ∣X/G∣=∣G∣1g∈G∑∣Xg∣
ここで Xg={x∈X∣g⋅x=x} は g の固定点集合である.
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/E7H9zqCYQAoBE2fJ1etO
9. 共役と類等式
a,b∈G が共役であるとは,ある g∈G が存在して b=gag−1 となることをいう.共役は同値関係であり,その同値類を共役類という.
Gが自分自身に共役で作用する(g⋅x=gxg−1).このとき:
Z(G)={z∈G∣zg=gz for all g∈G}=⋂a∈GCG(a) を G の中心という.Z(G)⊴G である.
有限群 G に対して ∣G∣=∣Z(G)∣+i∑[G:CG(ai)]
ここで右辺の和は,元の数が2以上の共役類からそれぞれ1つの代表元 ai を選んで取る.
軌道–固定部分群定理より ∣Cl(a)∣=[G:CG(a)] である.G は共役類に分割されるから,元が1つの共役類(=Z(G))と2つ以上の共役類を分けて数えれば類等式が得られる. □
素数 p に対して,∣G∣=pn(n≥1)なる群(p 群)では Z(G)={e} である.
類等式において ∣G∣=pn であり,各 [G:CG(ai)] は ∣G∣ の約数で2以上であるから p の倍数である.よって ∣Z(G)∣=∣G∣−∑i[G:CG(ai)]≡0(modp) である.e∈Z(G) より ∣Z(G)∣≥1 であるから ∣Z(G)∣≥p である. □
∣Z(G)∣∈{p,p2} である.∣Z(G)∣=p2 なら G=Z(G) でアーベル群である.∣Z(G)∣=p なら G/Z(G) は位数 p の巡回群で,G/Z(G)=⟨gZ(G)⟩ となる.任意の a,b∈G を a=giz1,b=gjz2(z1,z2∈Z(G))と書けば ab=ba となり,G がアーベル群であることが分かる.これは ∣Z(G)∣=p に矛盾するから ∣Z(G)∣=p2 である. □
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/E7H9zqCYQAoBE2fJ1etO
10. Sylowの定理
graph TD
A["ラグランジュの定理"] --> B["コーシーの定理"]
B --> C["Sylow 第一定理"]
D["類等式"] --> B
E["群作用<br/>(軌道–固定部分群定理)"] --> C
C --> F["Sylow 第二定理"]
C --> G["Sylow 第三定理"]
E --> F
E --> G
style C fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
style F fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
style G fill:#f5f5f5,stroke:#333,color:#000
有限群 G の位数 ∣G∣ が素数 p で割り切れるならば,G は位数 p の元を持つ.
集合 S={(a1,…,ap)∈Gp∣a1a2⋯ap=e} に巡回群 Z/pZ が巡回シフトで作用する.∣S∣=∣G∣p−1 であるから p∣∣S∣ である.固定点は (a,a,…,a)(ap=e)の形であり,e 以外の固定点が存在することから位数 p の元が得られる. □
以下,∣G∣=pnm(p∤m)とする.位数pnの部分群をGのSylowp-部分群といい,その全体の集合をSylp(G),個数をnp=∣Sylp(G)∣と書く.
Sylow p-部分群は存在する.すなわち Sylp(G)=∅ である.
G の任意の2つの Sylow p-部分群は共役である.すなわち P,Q∈Sylp(G) ならばある g∈G が存在して Q=gPg−1 である.
np≡1(modp) かつ np∣m(=∣G∣/pn)である.
応用例:
位数 15=3×5 の群 G を分類する.n3∣5 かつ n3≡1(mod3) より n3∈{1,5} であるが 5≡1(mod3) であるから n3=1 である.n5∣3 かつ n5≡1(mod5) より n5=1 である.Sylow 3-部分群 P≅Z/3Z と Sylow 5-部分群 Q≅Z/5Z はともに正規で P∩Q={e} である.よって G≅P×Q≅Z/3Z×Z/5Z≅Z/15Z である.位数15の群は巡回群に限る.
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/0UQnFtypsveWpjr3RUF1
11. 直積と有限アーベル群の構造定理
群 G1,G2 の直積G1×G2 は,集合としての直積に成分ごとの演算 (a1,a2)(b1,b2)=(a1b1,a2b2)
を定めた群である.
G の正規部分群 N1,N2 が N1∩N2={e} かつ G=N1N2 を満たすとき,G≅N1×N2 である.
有限アーベル群 G は巡回群の直積に分解できる: G≅Z/p1e1Z×Z/p2e2Z×⋯×Z/pkekZ
ここで pi は素数(重複を許す),ei≥1 である.この分解は因子の順序を除いて一意である.
位数 12 のアーベル群は次の2種類に限る:
Z/4Z×Z/3Z≅Z/12Z(巡回群)
Z/2Z×Z/2Z×Z/3Z≅Z/2Z×Z/6Z
12=22×3 であり,22 の分割 {(4),(2,2)} に対応して2つの型が得られる.
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/CpYICnsMZQ3f3hdA0Lqb
https://interconnectd.app/articles/Y1MprpTmWos5QbdA1LoS
12. 単純群とJordan-Hölderの定理
群 G が単純群(simple group)であるとは,G={e} であり,G の正規部分群が {e} と G のみであることをいう.
素数位数の巡回群 Z/pZ は単純群である(ラグランジュの定理より部分群が {e} と G のみ).
群 G の組成列(composition series)とは,部分群の列 {e}=G0⊴G1⊴⋯⊴Gk=G
であって,各商群 Gi+1/Gi が単純群であるもののことである.Gi+1/Gi を組成因子(composition factor)という.
有限群 G={e} は組成列を持つ.さらに,G の任意の2つの組成列は,(順序を適切に並べ替えれば)同じ組成因子を持つ.
→ 詳しくは:
https://interconnectd.app/articles/f1fOJyNTcCMDYzsN2rfQ
https://interconnectd.app/articles/9tEaghWGm1Ba5ufiC68M
13. 群論の定理一覧
学部群論で登場する主要15定理の一行サマリーである.
消約法則:ab=ac⇒b=c
ラグランジュの定理:∣H∣ は ∣G∣ を割る
フェルマーの小定理:p が素数,gcd(a,p)=1 なら ap−1≡1(modp)
巡回群の分類:巡回群は Z または Z/nZ に同型
第一同型定理:G/kerφ≅Imφ
第二同型定理:HN/N≅H/(H∩N)
第三同型定理:(G/N)/(H/N)≅G/H
ケイリーの定理:任意の群は対称群の部分群に同型
軌道–固定部分群定理:∣Orb(x)∣=[G:Stab(x)]
バーンサイドの補題:∣X/G∣=∣G∣1∑g∣Xg∣
類等式:∣G∣=∣Z(G)∣+∑i[G:CG(ai)]
コーシーの定理:p∣∣G∣ なら位数 p の元が存在する
Sylow 第一定理:Sylow p-部分群は存在する
Sylow 第二定理:任意の2つの Sylow p-部分群は共役
Sylow 第三定理:np≡1(modp) かつ np∣[G:P]
さらに構造論的な結果として:
14. 付録:記号と用語一覧
| 記号 |
読み |
意味 |
| ∣G∣ |
G の位数 |
群 G の元の個数 |
| ord(a) |
a の位数 |
an=e となる最小の正整数 n |
| H≤G |
H は G の部分群 |
H が G の演算で群をなす |
| N⊴G |
N は G の正規部分群 |
すべての g に対して gNg−1=N |
| [G:H] |
指数 |
G における H の剰余類の個数 |
| G/N |
商群 |
N による剰余類全体の群 |
| kerφ |
核 |
φ(g)=eH なる g 全体 |
| Imφ |
像 |
φ(g) 全体 |
| G≅H |
同型 |
同型写像 G→H が存在 |
| ⟨S⟩ |
S で生成される部分群 |
S を含む最小の部分群 |
| Z(G) |
中心 |
すべての元と可換な元の集合 |
| CG(a) |
中心化群 |
a と可換な G の元の集合 |
| Orb(x) |
軌道 |
G の作用による x の像全体 |
| Stab(x) |
固定部分群 |
x を動かさない元の集合 |
| Sn |
対称群 |
n 文字の置換全体 |
| An |
交代群 |
Sn の偶置換全体 |
| Dn |
二面体群 |
正 n 角形の合同変換群 |
| GLn(R) |
一般線型群 |
n 次正則行列全体 |
| SLn(R) |
特殊線型群 |
行列式1の正則行列全体 |
| Sylp(G) |
Sylow p-部分群の集合 |
位数 pn の部分群全体 |
| np |
Sylow p-部分群の個数 |
∣Sylp(G)∣ |