グラフの基礎定義と基本性質 ― グラフ理論の出発点を固める
無向グラフ・有向グラフの形式的定義から出発し,次数,握手の補題,完全グラフ$K_n$,完全二部グラフ$K_{m,n}$,グラフの同型を証明付きで解説する教科書スタイルの記事.
1 グラフとは何か
定義 1 (無向グラフ).
無向グラフ(undirected graph)とは,空でない有限集合 と, の元の非順序対 ()を元とする集合 の組 をいう. の元を頂点(vertex), の元を辺(edge)という.辺 に対して と は の端点であるといい, と は隣接する(adjacent)という.
定義 2 (有向グラフ).
有向グラフ(directed graph)とは,空でない有限集合 と, の部分集合 (ただしループ を許すか否かは文脈による)の組 をいう. の元 を弧(arc)と呼び, を始点, を終点という.
定義 3 (多重グラフと単純グラフ).
2頂点間に複数の辺を許すグラフを多重グラフ(multigraph)という.自己ループ も多重辺も持たないグラフを単純グラフ(simple graph)という.本シリーズでは特に断らない限り単純無向グラフを扱う.
以下,グラフの頂点集合を,辺集合をと書き,,とおく.
2 次数と握手の補題
定義 4 (次数).
頂点 に対して, に接続する辺の本数を の次数(degree)といい, または と書く.すなわち
の頂点の次数の最小値を ,最大値を と書く.
定理 5 (握手の補題).
任意のグラフ に対して
が成り立つ.
証明.
各辺 は と にそれぞれ ずつ寄与する.よって左辺の和では各辺がちょうど 回数えられる. □
注意 6.
握手の補題(handshaking lemma)の名前は「パーティーで全員の握手回数の総和は偶数」という解釈に由来する.この補題の直接の帰結として,任意のグラフにおいて奇数次の頂点の個数は偶数である.
例 7.
5頂点のグラフで次数列が であるとき, より辺数は である.一方,次数列 は が奇数なので,このようなグラフは存在しない.
3 完全グラフと完全二部グラフ
定義 8 (完全グラフ).
すべての異なる2頂点が辺で結ばれているグラフを完全グラフ(complete graph)といい,頂点数 の完全グラフを と書く. の辺数は であり,各頂点の次数は である.
定義 9 (二部グラフ・完全二部グラフ).
()と分割でき, のすべての辺が の頂点と の頂点を結ぶとき, を二部グラフ(bipartite graph)という.さらに の各頂点と の各頂点がすべて辺で結ばれているとき完全二部グラフといい,, のとき と書く. の辺数は である.
完全グラフ:
完全二部グラフ:
4 補グラフ
定義 10 (補グラフ).
単純グラフ に対して, を の補グラフ(complement)という.すなわち である.
定理 11.
任意の単純グラフ ( 頂点)に対して が成り立つ.
証明.
と は の分割をなすので明らかである. □
5 グラフの同型
定義 12 (グラフの同型).
2つのグラフ と が同型(isomorphic)であるとは,全単射 が存在して
が成り立つことをいう.このとき と書く.
注意 13.
グラフの同型は同値関係である(反射性・対称性・推移性を満たす).グラフ理論では同型なグラフを「同じ」とみなすのが通常である.同型でないことを示すには,頂点数・辺数・次数列などの不変量が異なることを確認すればよい.ただし,すべての不変量が一致しても同型とは限らない.グラフ同型判定問題は に属するが, 完全であるかどうかは未解決問題である.
例 14.
5頂点・5辺で次数列が のグラフは (5-閉路)に同型である.これは頂点数と次数列だけで同型類が定まる例である.一方,同じ次数列 でも と (2つの三角形の非連結和)は同型でない.