最大フロー最小カット定理が言っていること ― 双対性の直感
最大フローと最小カットが等しいという驚くべき定理を,「最も弱い部分がボトルネック」という直感から解説します.増加路の考え方,LP 双対性とのつながり,道路やインターネットの帯域幅の実例も紹介します.
ネットワークフロー理論の中心にある最大フロー最小カット定理は,グラフ理論で最も美しい結果のひとつです.「送れるフローの最大量」と「ネットワークを切断するのに必要な最小コスト」が一致するというこの定理は,一見まったく異なる2つの量が等しいという双対性の典型例です.
1 フローとは何か ― 水道管のアナロジー
水道管のネットワークを想像してください.は浄水場,は各家庭,弧は水道管,容量は水道管の太さ(単位時間あたりに流せる水量の上限)です.
容量制約:各弧 に対して
流量保存則: 以外の各頂点 に対して
2 カットとは何か ― ネットワークの急所
カットは「ネットワークを側と側に分断する線」です.分断するには,からに向かうすべての弧を「切断」する必要があり,その容量の合計がカットの容量です.
3 弱い双対性 ― まず「以下」を理解する
これは直感的に明らかです.からにフローを送るには,必ずカットを横断する弧を通らなければなりません.そこを通過できるフローは容量以下ですから,フローの値はカットの容量で上から抑えられます.
4 最大フロー最小カット定理 ― 等号の成立
弱い双対性は「」を言うだけです.驚くべきことに,等号が達成されます.
5 LP 双対性 ― より深い視点
最大フロー最小カット定理は,実は線形計画法(LP)の双対定理の特殊ケースです.
6 実世界の応用
7 まとめ
最大フロー: から に送れるフローの最大量
最小カット: と を分断するための最小コスト
この2つは常に等しい ― 増加路がなくなったとき,ボトルネック(カット)に到達する
LP 双対性の美しい特殊ケースであり,数学全体に通じる「最大 = 最小」の思想を体現している
次の記事では,二部グラフの世界に足を踏み入れます.なぜ二部グラフでは「すべてが上手くいく」のかを解説します.