行列と線形写像の表現 ― 基底を選んで計算する
線形写像の表現行列の定義から出発し,基底変換公式 P^{-1}AP,行列の階数と線形写像の階数の一致,正則行列と逆行列の理論を展開する.
1 表現行列
定義 1 (表現行列).
を有限次元ベクトル空間, を の基底, を の基底とする.線形写像 に対して,
で定まる 行列 を,基底 に関する の表現行列という. と書く.
注意 2.
表現行列の第 列は, の に関する座標ベクトルである.すなわち「基底の像を列として並べたもの」が表現行列である.
例 3.
, とする.標準基底 , に関する表現行列は
定理 4 (合成と行列の積).
, を線形写像とし,基底 に関する表現行列をそれぞれ , とする.合成 の表現行列は
すなわち,合成は行列の積に対応する.
2 基底変換
定義 5 (基底の変換行列).
の2つの基底 と に対して,
で定まる行列 を から への変換行列(transition matrix)という.
定理 6 (基底変換公式).
を線形写像とし,基底 に関する表現行列を ,基底 に関する表現行列を とする. を から への変換行列とすると
証明.
の に関する座標を , に関する座標を とすると . の 表現は ,これの 座標は .よって . □
定義 7 (相似).
正方行列 に対して,ある正則行列 が存在して が成り立つとき, と は相似(similar)であるという.
注意 8.
相似な行列は同じ線形写像の異なる基底に関する表現である.したがって,相似な行列は同じ固有値,同じ行列式,同じ階数,同じトレースを持つ.
3 行列の階数
定義 9 (行列の階数).
行列 の列ベクトルが の中で生成する部分空間の次元を の列階数,行ベクトルが の中で生成する部分空間の次元を の行階数という.
定理 10 (列階数 行階数).
任意の行列について列階数と行階数は等しい.この共通の値を と書く.
証明.
を , の表現行列とみなすと,列階数 .行基本変形は の次元を変えないことと,RREF の非零行の本数が行階数であることから,両者の一致が従う. □
4 正則行列と逆行列
定義 11 (正則行列).
次正方行列 に対して なる行列 が存在するとき, を正則行列(invertible matrix), を の逆行列といい と書く.
定理 12 (正則行列の同値条件).
次正方行列 について,以下は同値である:
は正則
の解は のみ
の列ベクトルは線形独立
の RREF は
は同型写像
定理 13 (逆行列の一意性).
正則行列の逆行列は一意である.
証明.
かつ ならば . □
定理 14 (逆行列の性質).
が正則行列のとき:
証明.
(1) かつ であるから, は の逆行列である.逆行列の一意性より .(2) .同様に .逆行列の一意性より .(3) .同様に .逆行列の一意性より . □