「3色のビーズで4個のネックレスを作ると何通り?」― こういう問題で難しいのは,回転して同じになるものを同一視しなければならないことです.対称性があると素朴な数え上げではうまくいきません.バーンサイドの補題は,対称性の下での数え上げを「固定点数の平均」という美しい公式に帰着させます.
1 問題の設定 ― なぜ素朴に数えられないのか
4つのビーズからなるネックレスを3色で塗り分ける方法は何通りでしょうか? 回転して同じになるものは同一とみなします.回転を無視すれば 34=81 通りですが,4つの回転(0°,90°,180°,270°)で移り合うものを同一視する必要があります.
2 群作用と軌道 ― 対称性の数学的表現
群 G が集合 X に作用するとは,各 g∈G に対して写像 g:X→X が定まり,
e⋅x=x(単位元は恒等写像)
(gh)⋅x=g⋅(h⋅x)(結合的)
を満たすことです.
x∈X の軌道(orbit)とは Orb(x)={g⋅x∣g∈G} です.「G の作用で x から到達できるすべての要素」の集合です.
3 バーンサイドの補題
g∈G に対して,g の固定点集合は Fix(g)={x∈X∣g⋅x=x} です.
有限群 G が有限集合 X に作用するとき,軌道の個数 ∣X/G∣ は ∣X/G∣=∣G∣1g∈G∑∣Fix(g)∣
つまり,固定点数の平均に等しくなります.
集合 S={(g,x)∈G×X∣g⋅x=x} の要素数を2通りに数えます.g を固定して x を動かすと ∣S∣=∑g∈G∣Fix(g)∣ です.x を固定して g を動かすと,g⋅x=x を満たす g の集合は x の安定化群Stab(x) です.軌道・安定化群定理(∣Orb(x)∣⋅∣Stab(x)∣=∣G∣)より ∣Stab(x)∣=∣G∣/∣Orb(x)∣ です.したがって ∣S∣=x∈X∑∣Stab(x)∣=x∈X∑∣Orb(x)∣∣G∣
各軌道 O に対して ∑x∈O∣O∣1=1 なので,∣S∣=∣G∣⋅(軌道の個数) です.2つの表現を等しくおいて割れば定理が得られます. □
4 ネックレス問題の解法
4ビーズ3色のネックレスの問題に戻りましょう.G={r0,r1,r2,r3}(rは90°回転)です.
各群元の固定点数を数えます:
r0(恒等変換):すべての着色を固定 → ∣Fix(r0)∣=34=81
r1(90° 回転):4ビーズがすべて同色のもののみ固定 → ∣Fix(r1)∣=3
r2(180° 回転):対面のビーズが同色のもの → ∣Fix(r2)∣=32=9
r3(270° 回転):r1 と同様 → ∣Fix(r3)∣=3
バーンサイドの補題より, ∣X/G∣=41(81+3+9+3)=496=24
5 ポリアの数え上げ定理
バーンサイドの補題を精密化したのがポリアの数え上げ定理です.
群 G が {1,2,…,n} に作用するとき,各 g∈G の置換をサイクル分解して,長さ k のサイクルの個数を ck(g) とします.G の巡回指標は Z(G;s1,s2,…,sn)=∣G∣1g∈G∑k=1∏nskck(g)
です.
m 色で塗り分けるとき,区別される着色の数は Z(G;m,m,…,m) です.さらに各色の使用回数を追跡したいときは,sk に適切な変数を代入します.
4ビーズの回転群 Z/4Z の巡回指標は Z(Z/4Z)=41(s14+s4+s22+s4)
sk=m(m 色)とおくと 41(m4+2m+m2) です.m=3 で 41(81+6+9)=24 と一致します.
6 まとめ
対称性のある数え上げでは,群作用の軌道の数を求めます
バーンサイドの補題:∣X/G∣=∣G∣1∑g∣Fix(g)∣(固定点数の平均)
ポリアの数え上げ定理は巡回指標を使ったバーンサイドの精密化です
ネックレスの塗り分けなど,回転・鏡映対称性がある問題に威力を発揮します
最後の記事では,組合せ論と DP(動的計画法)の深い関係を探り,シリーズ全体を振り返ります.