カタラン数と格子経路 ― 反射原理と全単射証明
カタラン数$C_n = \frac{1}{n+1}\binom{2n}{n}$の反射原理による証明,LGV公式,5つの組合せ的解釈の全単射構成,バロット問題,Narayana数を扱う.
1 格子経路と二項係数
定義 1 (格子経路).
上の点 から への格子経路(lattice path)とは,各ステップが右 または上 の移動である経路のことをいう.
定理 2.
から への格子経路の総数は である.
証明.
全体で ステップのうち右方向に進む ステップを選べばよいので 通りである. □
2 反射原理とカタラン数
定義 3 (Dyck 経路).
から への格子経路で,ステップが (上昇)と (下降)であり, を常に満たすものをDyck 経路(Dyck path)という.
定理 4.
ステップの上昇と ステップの下降からなる Dyck 経路の個数は
である.
証明.
から への経路で上昇 回,下降 回のものの総数は .このうち に達する「悪い」経路の数を求め差し引く.反射原理(André に初めて到達する点を持つ.その点以降の経路を に関して反射すると, から への経路と1対1に対応する.この経路は上昇 回,下降 回からなるので,その個数は .よって Dyck 経路の数は
□
3 LGV 公式
定理 5 (Lindstr\"om–Gessel–Viennot 公式).
有向非巡回グラフにおいて,始点の組 と終点の組 が与えられたとき,頂点を共有しない 本の道の組の(符号付き)個数は
で与えられる.ここで は から への道の本数である.
証明.
行列式を展開すると となる.各 に対して から への道の組を考える.道が交差する(頂点を共有する)組は,交差点で道を入れ替える操作によって別の と対になり, と が逆符号であるため相殺する.残るのは頂点を共有しない道の組のみであり,これは (平面的な条件の下)に対応する. □
4 カタラン数の5つの解釈
定理 6.
以下の5つの対象はすべて 個存在し,互いに全単射で結ばれる:
対の括弧の正しい対応(well-formed parentheses)
個の葉を持つ full binary tree の個数
から への格子経路で対角線 を越えないもの
の非交差分割(non-crossing partition)の個数(ただし適切に解釈する場合)
凸 角形の三角形分割(triangulation)の個数
証明.
(1) と Dyck 経路の全単射:「(」を上昇ステップ,「)」を下降ステップに対応させる.正しい括弧列は の条件と同値である.(2) と Dyck 経路の全単射: 個の葉を持つ full binary tree の各内部ノードを左の子への移動(上昇)と右の子への移動(下降)に対応させると,木の深さ優先走査が Dyck 経路を定める.逆に,Dyck 経路の各上昇を左の子,各下降を右の子と読めば full binary tree が復元される.(3) と Dyck 経路の全単射: から への経路で (対角線以下)のものは,右ステップを上昇,上ステップを下降と読み替えれば Dyck 経路に一致する.(4) と Dyck 経路の全単射: の非交差分割において,各ブロックを構成する元を左から順に走査し,ブロックの開始を上昇,終了を下降に対応させると Dyck 経路が得られる.非交差条件が の条件に対応する.(5) の証明は帰納法による:凸 角形の1辺を固定し,その辺を含む三角形の選び方で場合分けすると漸化式 が得られ,カタラン数の漸化式に一致する. □
5 バロット問題
定理 7 (バロット問題).
候補 が 票,候補 が 票を獲得し であるとき,開票の全過程で常に が をリードしている確率は である.
証明.
から へのステップ ( に投票)と ( に投票)の経路のうち,(常にリード)を満たすものの数を求める.反射原理を用いると, に到達する経路は から 等の反射と対応する.最終的に条件を満たす経路の割合が であることが示される. □
6 Narayana 数
定義 8 (Narayana 数).
をNarayana 数という. はちょうど 個の山(peak)を持つ Dyck 経路の個数に等しい.
定理 9.
証明.
Dyck 経路を山の数で分類すれば,すべての Dyck 経路の総数はカタラン数であるから, が成り立つ. □
Narayana 数はカタラン数の精密化(refinement)であり,-アナログを考えることで-カタラン数や Carlitz -Narayana 数に拡張される.