線形独立・基底・次元 ― ベクトル空間の骨格
線形結合と線形独立の定義から出発し,基底の存在と一意性(Steinitz交換定理),次元の well-definedness を証明する.生成系・線形独立系・基底の関係を明確にする教科書スタイルの解説.
1 線形結合と生成
定義 1 (線形結合).
ベクトル空間 のベクトル と,スカラー に対して
を の線形結合(linear combination)という.
定義 2 (生成).
とする. の全ての線形結合の集合
を の生成する部分空間(span)という. のとき, は を生成する( は の生成系である)という.
例 3.
において, は 平面 である. を加えると となる.
2 線形独立と線形従属
定義 4 (線形独立).
ベクトル が線形独立(linearly independent)であるとは,
が成り立つことをいう.線形独立でないとき線形従属(linearly dependent)という.
定理 5.
が線形従属であるための必要十分条件は,ある が残りのベクトルの線形結合で書けることである.
証明.
線形従属より で なるものが存在する.. とすると は自明でない線形関係式である. □
例 6.
,, は線形従属である. だからである.,, は線形独立である. から直ちに .
3 基底
定義 7 (基底).
ベクトル空間 のベクトルの組 が の基底(basis)であるとは,次の2条件を同時に満たすことをいう:
は を生成する
は線形独立である
定理 8 (基底による表示の一意性).
が の基底ならば,任意の は
と一意に表される.
証明.
生成系であるから存在する.一意性を示す. ならば .線形独立性より (各 ),すなわち . □
定義 9 (座標).
基底 に関する の係数の組 を の座標(coordinate)という.
4 Steinitz 交換定理
定理 10 (Steinitz 交換定理).
をベクトル空間とする. が を生成し, が線形独立ならば
が成り立つ.さらに のうち 個を で置き換えても を生成する.
証明.
は の線形結合で書ける:.係数のうち少なくとも一つは でない().番号を付け替えて としてよい.このとき と書けるから, も を生成する.この操作を に対して順に繰り返す. ステップ目で を生成系に加え, の一つを除く. の線形独立性から,除くべき が常に存在することが保証される.もし ならば, ステップで が尽き, が生成系となる.しかし はこの生成系の線形結合で書けるので, が線形従属となり矛盾.よって . □
5 次元
定理 11 (基底の元数の一致).
ベクトル空間 が有限個の元からなる基底を持つとき, のすべての基底は同じ元数を持つ.
証明.
と がともに基底とする.前者は生成系で後者は線形独立なので (Steinitz).逆も同様で .よって . □
定義 12 (次元).
ベクトル空間 の基底の元数を の次元(dimension)といい, と書く.基底が有限でないとき と書く.
定理 13.
のとき:
の線形独立なベクトルは高々 本である
の 本の線形独立なベクトルは基底をなす
を生成する 本のベクトルは基底をなす
証明.
(1) Steinitz 交換定理から直ちに従う.(2) が線形独立で を生成しないと仮定する.ある で が存在する.このとき は線形独立だが,これは 本の線形独立ベクトルで (1) に矛盾.(3) が を生成するが線形従属と仮定する.ある が残りの線形結合で書けるので除いても を生成する.すると 本で を生成するが,基底は 本の線形独立系なので Steinitz より ,矛盾. □
例 14.
:標準基底
:
:( 成分のみ ,他は の行列)