群作用と類等式 ― 群が集合を「動かす」理論
群作用の定義から出発し,軌道・固定部分群・軌道安定化群定理を証明します.バーンサイドの補題,共役と類等式,$p$群の中心が非自明であることの証明まで,シローの定理への準備を完成させます.
1 群作用の定義
定義 1 (群作用).
群 と集合 に対して,写像 , が次の2条件を満たすとき, は に(左から)作用する(acts on)という:
(任意の )
(任意の ,)
2 基本的な例
例 2 (自明な作用).
(すべての )で定めると群作用になる.
例 3 (左正則表現).
自身への左乗法 は群作用である.条件 (1):,条件 (2):.
例 4 (共役作用).
が 自身に で作用する.条件 (1):,条件 (2):.
例 5 (部分群への共役作用).
が の部分群の集合に で作用する.
例 6 (剰余類への作用).
とする. が左剰余類の集合 に で作用する.
例 7 ( の自然な作用).
が に で作用する.
3 軌道と固定部分群
定義 8 (軌道).
が に作用するとき, の軌道(orbit)を
と定義する.
定義 9 (固定部分群(安定化群)).
の固定部分群(stabilizer)を
と定義する.
定理 10.
は の部分群である.
証明.
より . ならば ( より ).よって . □
定理 11 (軌道は分割をなす).
上の関係 は同値関係であり,軌道全体は の分割をなす:
証明.
反射律:.対称律: ならば なので .推移律:, ならば . □
4 軌道安定化群定理
定理 12 (軌道安定化群定理).
が に作用し, とする.このとき
特に が有限群ならば .
証明.
全単射 , を構成する.well-defined: ならば ,すなわち ,よって .単射: ならば ,,.全射: に対して . □
例 13.
が に自然に作用する. の軌道は (全体),..
5 不動点の数え上げ
定義 14 (不動点集合).
に対して を の不動点集合という.
定理 15 (バーンサイドの補題).
を有限群, を有限 -集合とする.軌道の数 は
で与えられる.
証明.
集合 の元の数を2通りに数える. を固定して数えると . を固定して数えると .軌道安定化群定理より なので
同じ軌道に属する元は同じ値 を持つので,各軌道からの寄与は .よって右辺 . □
6 共役類と類等式
共役作用に軌道安定化群定理を適用すると,群の構造に関する強力な結果が得られる.
定義 16 (共役類・中心化群).
の共役作用における軌道を共役類(conjugacy class)という:
固定部分群は中心化群(centralizer)と呼ばれる:
定義 17 (中心).
の中心(center)を
と定義する. である.
注意 18.
(共役類が1点集合).
定理 19 (類等式).
を有限群とする.共役類への分解を考えると
ここで和は (すなわち )なる代表元を一つずつ取る.各 であり, は を割り切る.
証明.
は共役類の非交和に分解される.共役類の大きさは (軌道安定化群定理).大きさ の共役類全体が であり,大きさ の共役類を集めれば
□
7 群の性質
定義 20 (群).
素数 に対して,()なる有限群 を 群(-group)という.
定理 21 (群の中心は非自明).
を 群(,)とする.このとき .
証明.
類等式 において,各 はラグランジュの定理より の約数であり, なので . なので
なので ,よって ,特に . □
定理 22 (位数 の群はアーベル).
ならば はアーベル群である.
証明.
より または . なら でアーベル群. と仮定すると なので は巡回群. とすると,任意の は ,()と書ける.( は中心の元なので可換).これは がアーベルであることを意味し, となって に矛盾. □
定理 23 (不動点定理).
を 群, を有限 -集合とする. を不動点の集合とすると
証明.
軌道分解 ()において,各 は の約数で なので で割り切れる.よって . □
8 ケイリーの定理
定理 24 (ケイリーの定理).
任意の群 は,ある対称群の部分群に同型である. が有限群で ならば は の部分群に同型である.
証明.
が 自身に左乗法 で作用する.各 に対して , は全単射(逆写像は ).写像 , は準同型:. より単射.第一同型定理から . □
9 まとめと次のステップ
本記事で扱った内容:
群作用の定義と基本的な例
軌道・固定部分群と軌道安定化群定理
バーンサイドの補題
共役類・中心化群・中心と類等式
群の中心は非自明, ならアーベル
不動点定理
ケイリーの定理
類等式と群の不動点定理を手に入れたことで,次の記事では有限群論の頂点の一つ ― シローの定理(存在・共役・個数の3定理)― を証明する.