対角化 ― 基底を選んで行列を最も簡単にする
対角化可能の定義と必要十分条件を証明し,対角化の手順を体系的に解説する.A^n の計算法と三角化への拡張も扱う.
1 対角化の定義
定義 1 (対角化可能).
次正方行列 が対角化可能(diagonalizable)であるとは,ある正則行列 が存在して
が対角行列になることをいう.
注意 2.
これは「 を適切な基底で表現すると対角行列になる」ことと同値である.対角行列の列は固有ベクトルを並べた行列 で,対角成分は対応する固有値である.
2 対角化可能条件
定理 3 (対角化可能の必要十分条件).
次正方行列 が対角化可能であるための必要十分条件は,次のいずれか(すべて同値):
が 個の線形独立な固有ベクトルを持つ
すべての固有値 について,幾何的重複度 代数的重複度
固有多項式 が 上で一次式の積に分解し,かつ各固有値の幾何的重複度が代数的重複度に等しい
証明.
対角化可能: ⇔ . とすると (各 ). が正則 ⇔ が線形独立.:異なる固有値の固有空間の直和の次元は各固有空間の次元の和に等しい.全体で になるためには,各固有空間の次元(幾何的重複度)が代数的重複度に等しいことが必要十分. □
例 4 (対角化可能).
の固有多項式:.固有値 ,.異なる2つの固有値を持つので対角化可能.:.:.
例 5 (対角化不可能).
の固有多項式:.固有値 (代数的重複度 ).(幾何的重複度 ). なので対角化不可能.
3 対角化の手順
次正方行列を対角化する手順:
固有多項式 を計算する
を解いて固有値 と代数的重複度を求める
各固有値 に対して固有空間 の基底を求める
各固有空間の幾何的重複度が代数的重複度に等しいことを確認(等しくなければ対角化不可能)
固有ベクトルを列に並べて を構成し,
4 の計算
が対角化可能のときであり
例 6.
で を求める., より
5 三角化
定理 7 (Schur の三角化定理).
のとき,任意の 次正方行列 はユニタリ行列で三角化できる.すなわち,あるユニタリ行列 が存在して が上三角行列になる.
注意 8.
対角化できない行列でも三角化は常に可能である( が代数的閉体の場合).三角行列の対角成分は固有値であるから,, が再確認される.
定理 9.
が三角化されて が上三角行列のとき, は各対角成分が の上三角行列であるから, は対角化できない行列についても行列のべき乗を計算する一つの方法を与える.